生成AIを導入しても、単純に仕事が減るとは限りません。AIによって短縮できた時間が新しい業務に使われたり、AIを積極的に使う人ほど周囲から相談を受けたりすることで、かえって負担が増える場合もあります。
この問題を考えるうえで重要なのは、「AIを導入すること」と「仕事の仕組みを変えること」は別だという点です。
生成AIを使えば、文章の作成、要約、アイデア整理などを短時間で行えるようになります。しかし、仕事の進め方や役割分担が以前のままであれば、AIによって生まれた余裕に次々と別の仕事が追加されることもあります。

例えば、社内の問い合わせ対応を考えてみます。担当者が毎回ゼロから回答文を作成していたところ、過去の回答例を参考に生成AIで下書きを作成する仕組みを導入したとします。
1件10分かかっていた作業が5分になれば、同じ件数を処理するだけなら担当者の負担は減ります。しかし、「時間が半分になったので2倍の問い合わせを担当してほしい」とするだけでは、担当者にとってAI導入のメリットを感じにくくなる可能性があります。

そこで必要になるのが、業務プロセス※1そのものを見直す考え方です。
生成AIが下書きを担当し、人は内容の確認や判断が必要な部分に集中するといった役割分担に変えることができます。さらに、よくある問い合わせを整理してマニュアルに反映すれば、問い合わせ自体を減らせるかもしれません。
つまり、AIを使って「今までの仕事を速くする」だけではなく、「そもそもこの仕事をどのように進めるべきか」を考えることが大切です。
そのためには、マネジメント※2の方法も変わります。従来は、作業量や勤務時間を確認することで仕事の進み具合を把握しやすい面がありました。しかし、生成AIを利用すると、同じ成果物でも完成までに必要な時間が人によって大きく異なる場合があります。
そこで、時間だけではなく成果物の品質や、問題解決への貢献などを見る必要が出てきます。
また、AI活用を個人任せにすると、同じ会社でも使い方に差が生まれます。便利な方法を見つけた人のノウハウを標準化※3し、他の人も利用できるようにすることで、個人の効率化を組織全体の生産性向上につなげやすくなります。
ただし、生成AIの出力には誤りが含まれる可能性もあります。そのため、人による確認や情報管理のルールを設けることも欠かせません。特に、社外秘情報や個人情報を扱う場合は、会社が認めた環境や利用ルールを守る必要があります。
IT従事者である我々が取るべき行動の一つは、AI導入の効果を「何時間削減したか」だけで判断しないことです。作業時間だけでなく、品質、再利用できる仕組み、利用者の負担なども確認しながら、仕事そのものを改善していく視点が求められます。

※1 業務プロセス:仕事が始まってから完了するまでの一連の作業や手順のことです。
※2 マネジメント:組織や仕事が円滑に進むよう、人や業務を管理・支援することです。
※3 標準化:特定の人だけに頼らず、同じ方法で作業できるよう手順などを整えることです。